毎年この命日の時期になると、母ちゃんが大好きだったサイモンとガーファンクルの曲を普段以上に聴いてしまう。珍しく(?)、母ちゃんはポール・サイモンではなく、アート・ガーファンクルのファンだった。「絶対ガーファンクルの方が歌が上手い。」というのが理由。事実、1990年の紅白歌合戦でポールが『明日に架ける橋』を歌った際、2人で「やっぱダメじゃなぁ…」と言ったりもした。

この『明日に架ける橋』、1番と2番の最後には「Like a bridge over troubled water, I will lay me down.」とある。訳すると、「荒波の上に架かる橋のように、自分が横たわろう。」といった感じだろうか。そして3番の最後は「I will ease your mind.」(君の心を和らげてあげよう)になっている。要するに、困難の中にある相手に寄り添い、自分が犠牲になってでも安心させようという詩の内容だ。
クリスチャンとしては、こんなのを聴くと、イエスのことを思い出さずにいられない。
サイモンとガーファンクルの曲の殆どはポールが書いてるが、この曲もまた例外ではない。ポールは自ら「宗教的な人間ではない」と言いながらも、「でもその割には、神や霊性について書くことが多い」ということも認めている。
尚、3番が「Sail on, silver girl.」というフレーズで始まることから、『silver girl』というのは銀色の注射針のことで麻薬に関する曲だという説があるが、実際には、若くして白髪が増え機嫌を悪くしていたポールの元妻ペギーに関するインサイドジョークとのことらしい。
この曲を書いた頃、ポールはゴスペルをよく聴いており、ある黒人霊歌に影響を受けてこの詩を書いたという。
『Mary Don’t You Weep』 (マリアよ、泣くんじゃない)という歌で、多くのミュージシャン達によって録音されているが、おそらく日本のゴスペルファンの間ではアレサ・フランクリンやテイク6のバージョンが有名ではないだろうか。他の多くの黒人霊歌同様、この曲にも色々な歌詞のバージョンがあるので解釈が様々なこともあるかもしれないが、このマリアというのは、イエスの母マリア(聖母マリア)や、12弟子と一緒にイエスと行動を共にしていた『マグダラのマリア』ではなく、マルタの妹でラザロの姉である『ベタニアのマリア』のこと。新約聖書『ヨハネによる福音書』11章に、病死したラザロがイエスによって蘇生されるという話があるが、弟の死を悲しむマリアとマルタを慰めるイエスのことが書かれた歌だ。ちなみに12章の高価な香油の話にあるように、シーシー・ワイナンズのヒット曲『アラバスターボックス』の『Mary’s alabaster box』というフレーズに出てくるのも、このマリアということになる。
当時ポールが聴いていたのはスワン・シルバートーンズが録音したもの。よくゴスペル歌手は、コンサートではもちろん、スタジオでの録音の際にも、原曲に自分でセリフを付け加えることが多いが、同グループのリーダーだったクロード・ジーターが、曲の後半にイエスのマリアに対する言葉として「I’ll be your bridge over deep water if you trust in my name.」(私のことを信頼するなら、君のために深い河に架かる橋になってあげよう)というのを入れている。(2分9秒あたりから)
この、アドリブで入れただけかもしれない一言に影響を受け、ポールはあの名曲を書くことになる。
クリスチャンの曲でもないのに、聴く度にイエスの愛を思い出させてくれる…と思ってたが、実際、そのルーツはイエスにあったということだ。素直に喜んでいいんだろうと思う。
十代で洗礼を受けてから天に召されるまでの50年間うちの故郷の教会に通い続けた母ちゃんに、もしこの話をしてあげることができてたら、どんだけ喜んでくれてたか…。
Jesus loves y’all.