一つ昔話を思い出したもんで。
うちら夫婦が結婚したのは1999年だったが、その時がうちの両親にとって生涯唯一の海外旅行だったもんで、新婚旅行には行かず、当時ニューヨークに住んでいた弟と一緒に両親と行動を共にしていた。
2001年には2人でハワイへ行った。自分にとっては初めてだったが、あくまで友人の結婚式が目的だった。
そして2003年冬。結婚してから初めて、特に目的もない旅行に出た。
年末年始に約一週間のロサンゼルス滞在。宿泊場所を予約したのは嫁さんだったが、節約という意味で、最初の3泊は高速道路が近いということ以外特に便利でもない場所にある、大したことないホテルだった。その分残りの数日は贅沢して、サンタモニカの海岸沿いにあり、窓からは下の道路を見下ろさない限り太平洋の水平線しか見えないようなホテルだった。
元々1992年にメトロリンクが開業するまで、長距離用のアムトラック以外、電車なんてほぼ無だったと思われる同地区。当然旅行中も移動は車。サンタモニカからパームスプリングスまで、ここぞとばかりに、とにかく色んなところを走り回った。
ある日、ハリウッドに寄って適当に観光し、そのままサンセット大通りを西に向かい、ビバリーヒルズを適当に周ってサンタモニカに戻ることにした。
しかし、だ。
豪邸っぽい建物ばかりが目立つビバリーヒルズを走っていると、ある目的を果たしたいという気持ちに搔き立てられたのである。かといって周りには、それが可能な場所が見当たらない。スマホなんて持ち歩いてない時代、とりあえず車を止めて観光地図を開いた。
そして気づいたのは、なんと結構すぐ近くに、あの音楽史に残る名盤のジャケットで有名なビバリーヒルズ・ホテルがあるってこと。いや、他にも周りに色んな場所はあったのかもしれないが、いざそのホテルがそばにあると知ると、既にそれしか眼中になかった。
「今これをやり遂げるには、ここしかない。」
そう心に決めた自分は、早速車で向かい、ホテルの前で車を止めた。
さすがに高級そうなホテル。普段は図々しい自分も、ちょっとだけ緊張した。だが、せっかくの機会を逃すと、もしかしたら一生後悔するかもしれない。勇気を振り絞って入り口に向かった。
ロビーに入り、正々堂々とフロントデスクへ直行。宿泊費を訪ねてみた。確か、一泊$400以上だったと思う。今調べても一番安い部屋で$645だ。当然うちら夫婦にとっては、ありえない話。
だが、いかにも興味あり気に平然な顔して会話を続け、何泊連続なら空いてるのか、それ以上はいくらになるのかなど、続けて訊いてみた。
「なるほど。やっぱ今回はいいかな。また別の機会にお願いすると思います。」
「かしこまりました。いつでもどうぞ。」
「あの、ところでお尋ねしたいんですが…」
自分の要望に対し、何も怪しむことなく、快く案内してくれたフロントの男性。
最初から泊まる気もないのに、待ち望んでいた目的を果たし、満足してホテルを出た自分。
だからこそ、胸を張って言える。
「わしなぁ、昔、『ホテル・カリフォルニア』で、しょん便だけ済ませて出てきたことあるんよ。」
ふと、一昔前(?)のちょっとした思い出を懐かしむ自分であった。
Jesus loves y’all.
