広島県北の山奥で生まれ育ち、16歳で渡米した自分は、日本にいた時はロックコンサートに行く機会なんてなかった。スーパーの屋上とかでやってた無料のアイドルショーなんかは数の内に入らないし。
実際に金を払って聴きに行った初めてのコンサートは、1989年春、高校3年生の最後の休みにロサンゼルスで行ったスタン・ゲッツのライブ。ジャズのサキソフォンなんで、ロックじゃないが、元々好きだったし、2年後に他界したことを思うと、行っておいてよかった。ちなみに前座は琴でジャズフュージョンを演るYUTAKAって日本人だった。自分はフュージョンがあまり好きじゃないんでその人の演奏はあまり記憶にないけど、さすがにゲッツになると話は違った。
その2ヶ月後にはテネシーの高校を卒業し、夏の授業を取るため、早速テキサスに引っ越したわけだが、半年後の11月11日、自分にとって人生初のロックコンサートに行くことになる。丁度30年前の今日の話。
場所はコットン・ボウル。ダラスの球技場で、同名の学生フット―ボールの試合でも有名だったが、更にその昔はNFLのダラス・カウボーイズの本拠地でもあった。収容人数は9万人以上だという。
当時はインターネットなんて使ってる人は殆ど無だったんで、チケットに関する情報もラジオや新聞、または地元の音楽紙での入手。日本でいう『売ります・買います』みたいなページで8列目の席を1枚$100で2枚売ってるのを見つけた。今では、何万人も入る会場だと、一番安い席でも$200近くするっつうのに、後で聞いた話だと、当時は同じコンサートでも定価だと最前列でさえ$50もしなかったらしい。
もちろんメールも携帯電話も使ってない時代。寮の部屋の電話から、その『広告主』に連絡。大学のキャンパスの裏のコンビニにあるATMで現金をおろし、もっと人が多そうな別の店の駐車場で本人と待ち合わせ。最初は、ダフ屋どころか詐欺師かもしれないと不安だったからだが、実際に会ってみると、どこにでもいるようなロックファンの長髪の兄ちゃんで、人が好さそうな奴だった。 本人も2枚一緒にしか売るつもりがなかったし、こっちも友達も誘ってたんで丁度良かったが、 その友達は当時、自分に車の運転を教えてくれてたので、お礼に彼の分も払ってやることにしていた。
だが、せっかく予め値段も知らせておいて買ってやったのに、いざチケットを持ってその友達宅に行くと、「なんか、ちょっと高いんじゃねぇか?」とか、こっちが奢ってやってんのに文句言いやがる。実は彼、バルコニーかどこかの8列目だと勘違いしてたらしく、実際にチケットを見せると、「おい、これって、フィールド席じゃねぇか…。これで$100って、すげぇぞ…。」とか言いながら、手を震わせていた。
まだ免許を持ってなかった自分は、当日その友達の運転するジープで会場まで行った。それも2人でビール飲みながら。当時は平気でそんなことばかりやってた。(笑)
さすがに広かった。自分らの席から後ろを振り向くと、何万人もの聴衆がいて、その人達よりもいい席にいるんだと思うと、なんとなく快感のようなものさえ感じられた。
友達が、「ここには9月にザ・フーのコンサートに来たんだけど、前座で出てきたビリー・スクワイヤーに、みんなヤジるどころか、物まで投げつけたりして、ひどかったよ。」とか語るもんで、同じ羽目になるのも嫌だなと思った。だが、前座のリヴィング・カラーの演奏は、結構みんな喜んでた。黒人だけによるハードロックバンドってのは、少なくとも当時は珍しかった。
そして超待望のローリング・ストーンズが登場。
8列目だと、あのミック・ジャガーの汚らしい口がしっかり見えたし、途中殆ど動いてなかったロン・ウッドが、なんとなくラリってそうな表情をしてたのも十分に見えた。まだベースのビル・ワイマンもいた。彼が辞めたのは、この『スティール・ホイールズ・ツアー』の後だったような気がするが、もしかしたらもう1ツアーやったかも。確か、このツアーの延長っぽい流れで、翌年バンドとしては初めて日本に行ったんじゃなかったかな。

当日演った曲の一覧をsetlist.fmで発見。
- Start Me Up
- Bitch
- Sad Sad Sad
- Undercover of the Night
- Harlem Shuffle
- Tumbling Dice
- Miss You
- Ruby Tuesday
- Angie
- Rock and a Hard Place
- Mixed Emotions
- Honky Tonk Women
- Midnight Rambler
- You Can’t Always Get What You Want
- Little Red Rooster
- Can’t Be Seen
- Happy
- Paint It Black
- 2000 Light Years From Home
- Sympathy for the Devil
- Gimme Shelter
- It’s Only Rock ‘n’ Roll (But I Like It)
- Brown Sugar
- (I Can’t Get No) Satisfaction
- アンコール: Jumpin’ Jack Flash
ステージの両側には大きなモニターが設置されていて、『It’s Only Rock ‘n’ Roll』の間、往年のミュージシャン達の映像が映し出されていた。クイーン、フー、レッド・ツェッペリンといったロックバンドだけではなく、テンプテーションズやジェームス・ブラウン、スティービー・ワンダーも出てきたが、ストーンズの会場でビートルズの映像が数秒でも流れるのは、感慨深いものがあった。また、60年代のミックの顔が映ったと思うと、その瞬間ステージ上のミックの顔にアップという、粋な演出もあった。
8列目くらいになると、みんな椅子の上に立って見てるわけだが、うちらの真後ろにはメキシコ人っぽい背の低い女性が数人。かわいそうに、殆ど見れなかったんだろうな。
周りが立ってるっつうのに、隣のセクションには座ってる連中数名。酒飲みながらマリファナ吸ってると思えば、今度は『別の何か』を取り出して鼻から吸ってたりして、とにかく色んなことをやってた。
更にその向こうにいた女性は、Tシャツをずらし上げてステージに向かって胸を見せてた様だが、残念ながら(?)自分はその瞬間を見逃してしまったらしい。
まだ渡米3年目だった自分は、色んな意味で『アメリカ』を感じた一時だった。
帰りのジープでは、気分が最高っつうか、カバーを全て外してて天井がなかったのをいいことに、思わず飲んでたビールを上に噴き上げたりして、いつもは自分より派手に遊びまくってた友達も呆れてた。(笑)
初めてのロックコンサートがストーンズってのは、かなり贅沢な話だと思うが、その分衝撃が大き過ぎて、それから2週間後、せっかくスティービー・レイ・ヴォーンとジェフ・ベックの共演という、これまた大物ミュージシャン達のコンサートに行ったのに、正直物足りなかった。そういう勿体ない状況が、1~2年は続いたような気がする。
Jesus loves y’all.